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多賀城市在住、俳誌『小熊座』主宰。『小熊座』といえば、佐藤鬼房。高野はその後継である。震災句をいくつか、前のブログで挙げたが、それは大会のレジュメに記されたものを孫引きしたもの。実際に『萬の翅』にあたってみると、この句集は平成14年から24年までの10年間の句から496句をおさめたもの。編年体で編集されているから、単純に計算すると、震災後の句は、句集全体の3割ほど。 しかも、「あとがき」には、震災については一言も触れられていない。その「あとがき」から引用する。 「漠然とだが、この世を去る途中には、少なからぬ艱難が待っていると心していた。だが、それは想像をはるかに凌駕するもののようだ。この先の関門も五里霧中にある。混沌とは死ぬまで、いや死後もまた続くものであるらしい。ともあれ、非力ながら、今後も生きてある瞬間瞬間を刻んだ俳句を目指していきたい。」 むろん、これは大災を含意して思いを陳べているのだが、あえて、「震災」というものに言及しないところに、この俳人の俳句に籠めた気概が強く感じられる。殊更に、声高に震災や原発の災厄を、表現の外側ではことばにはすまいという思い。さらには、高野を襲った「少なからぬ艱難」は震災・原発だけではない。鬼房の死や自らの病もふくめた日常の諸相そのもののなかに震災も原発もあるという感慨が深く籠められているにちがいない。 さらにぼくなりに踏み込んで言えば、こうした大災は、とりわけ東北という風土(地勢)や歴史的過程においては「織り込み済み」の必然であり、再現ではないのか。いや、東北という限定も取り払ったほうがいいだろう。高野は「混沌」ということばを引きだしているが、人、および人の相渡る世界の不条理や不可解に挑むものこそ、俳句であり詩であるという思いをこそ、そこに読み取るべきだろう。 驚くのは、震災以前の句と以後の句と、まったくそのスタンスは微動だにしていないということ。俳人の表現の心棒は揺るがない。 この句集は、冒頭の平成14年、15年の句によって既にその全貌が定まったという印象をぼくは持つ。以下にそれらの句を引く。 若葉して樟には樟の血の匂い 光れるはたましいのみぞ黴の家 雷鳴を待つごと死者を待っている 死者に会うための眠りへ葛の雨 冬の暮一物質として坐る 清水汲む見えぬ無数の手に添われ 蝦夷蟬の祈りの色ぞ夕空は 飛ぶときは如何なる声か楓の実 億万の翅が生みたる秋の風 佐藤鬼房という高野の師の死を悼む句によってこの句集は始まるのだが、半ばあたりには、自らの病にかかわる句がそれに重なる。 白鳥の闇に隣りてわれの闇 細胞がまず生きんとす緑の夜 齢来て蛍火炎える音聞こゆ 癌もわが細胞であり冬の星 この二つの陰影が、句集全体を通奏低音のように重く浸しているように感じられる。言い過ぎをおそれずに言えば、鬼房の死と自らの病は、深く震災のカタストロフと呼応しあっている。あとがきに言う「艱難」とは、むろん「震災・原発」を想起させるが、そればかりではなく、「鬼房の死」や自らの病がその伏線に位置するように仕組まれている。 今挙げた句は、平成14年、15年の句だが、仮に、これらが震災後の句だと言っても、誰も疑義を覚えないのではないだろうか。ちなみに、震災の句を次に挙げる。 四肢へ地震ただ轟轟と轟轟と 天地は一つたらんと大地震 地震の闇百足となりて歩むべし 泥かぶるたびに角組み光る蘆 春光の泥ことごとく死者の声 やがて血の音して沈む春夕日 地の底まで沁みてゆけ牡丹雪 人呑みし泥の光や蘆の角 鬼哭とは人が泣くこと夜の梅 陽炎より手が出て握り飯摑む 煮えたぎる鮟鱇鍋ぞこの世とは * 初日影死者より伸びて来し羽か 一個一個一個の重み寒卵 3.11の大災も、鬼房の死も、病も、彼の住む土地で営まれるあれこれも、人の世の「艱難」の諸相である。以下、震災前の句からもう少し引く。 陸続と火縄となって雁の列 胎内に光を秘して沼凍る 白鳥の声は地底に湧く花か これは皆たましいですと梅を干す また一つ光を吐きぬ梅雨の鯉 一枚の大筵なり夏の象 青薄全員かつて兵士たり 霜柱この世の他にこの世なし みちのくの夕焼すべて鯨の血 万の翅見えて来るなり虫の闇 雁渡し渡れぬ魂も乗せて吹く しるしを入れた句はもっともっとあるのだが、これくらいに。 今日は原爆忌。この句集にも次の一句を見つけた。 琉金が闇に浮きおり原爆忌
by loggia52
| 2014-08-06 09:50
| 歌・句
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