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はじめに、第一回の短歌の受賞者でいらっしゃる岡井隆氏が、「詩と歌の間」という演題で講演をなさった。 この講演については、後にまわすとして、詩の部門で受賞なさった山本楡美子さんの「森へ行く道」(書肆山田)につて、少し触れておきたい。山本さんは、オースターの「シティ・オブ・グラス」の翻訳や、ソ連から追放されてアメリカに渡った詩人ブロツキーの翻訳や研究などで知られる人だが、この詩集を読んでいると、静かな対話の時間を行き交うことばが、深く読む人の心に響く。対話の相手は、木であったり、森であったり、小動物であったり、絵画であったりするのだが、正確にいうと、それらの相手は、詩人自身でもある、つまり内的な対話なのだ。 その中から、「見えない体」という「病む母へ」と副題のついた作品の一部を。 見えない体 あなたが身を寄せてくるのか わたしが手を差し出すのか あなたの衣服を開けると 棲みついている虫が一斉に見上げてくる おまえたちはここに眠っていたのか と わたしは何度会っても初めてのようにつぶやく 文字のように体をくねらせたまま静止している 何色といったらいいのだろう この探しあぐねた鉱脈は 衣服を脱がせると 樹皮の匂いがする いえ 樹皮に包まった幼虫たちの匂いだ 目はめしいて 口もきけない幼いもの 口腔の匂いとまじって 矩形の部屋で名を呼び合っている 光そのもののようにあからさまにされて ふるえながら 新しいものに名をつけ合っている わたしは何をしているのだろう あなたのやわらかな腐葉土をなでる その洞は思いもかけず 風が吹きすさび 荒れた土地に生える丈高い草が大きくなびいている わたしはどこに足を踏み入れたらいいのだろう 高い太陽の下 ひと筋のわだち あなたは熱しながら 体の中に水をとりもどしたのか 水たまりの傍らで遊ぶ妹たち 衣服を脱がせると あなたの中にあなたがいる そのあなたの中にさらにまたあなたがいる 本当のあなたは道化のように 声を失くして さみしい光のなかで (以下 略 ) あと20行ぐらい続くので、省略するが、いい詩である。 病む母の体のなかに、自らの生の中に棲む、名付けえぬ虫を見つけたり、あるいは、母という存在が、自然に(土や土地や虫や草の中に)還元されていく存在であるのを、半ばうべないながら、とまどっている。これは、病む母との対話というよりは、病む母のなかに棲む彼女自身との内的な対話というほうがいいだろう。それは、ある意味では、自らを母の中に還すことでもある。それが「生きる」ということなのかも知れない。 そのように考えると、「自然」というものも、わたしたちの外部にあるのではなく、むしろ自然の中に、わたしたちの深い部分(魂と言い換えても良い)とつながっているものを見つけることにおいてしか、自然はないのではないかと思えてくる。 他にも、マロニエとの対話の詩「マロニエ」や、ポンペイの遺跡に遺された夫婦をテーマにした「ポンペイのパン屋の夫婦」など佳品が並んでいる。
by loggia52
| 2010-06-13 13:26
| 詩
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