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東京で暮らす男が、山登りの下山の途中で粗末なお堂に転がり込む。そこで、これも東京から戻ってきたというその村の女と出会い、奇妙な役回りを頼まれる。「サエモンヒジリ」、古くからその小屋にはサエモンと呼ばれる乞食が住みなして、普段は物乞いをして集落をまわり、ムラの者たちから蔑まれ、ひどい仕打ちを受けているが、村に瀕死の重病人がでた時だけ、「ヒジリさま」と呼ばれ、臨終がせまると、その家の女が、朝夕その地蔵堂に酒や食べ物を置くようになる。人が亡くなると、村のお寺には墓もあるが、屍体を埋葬するのは川向こうのもう一つの墓で、そこへ棺桶を運ぶのがヒジリさまの仕事である。ところが、この七、八年の間、ヒジリさまがいない状態が続いていて、そういう遺習も忘れたようになっていた。 男は、女に、彼女の祖母がもうすぐなくなるようなので、そのためのヒジリさまの役を懇願されるのである。この土俗的な習俗をからめながら、男と女の奇妙な結びつきが、精緻な文体で描かれていく。時にその文体は、どきっとするような不穏な気配をただよわせ、執拗でねっとりと、日本語の膠着的な属性を追究したような様相を帯びたりする。 「何かが駆けて行く。目に見えない群れが、谷の奧から押し出され、洞ろな哮りをあげながら、村を一気に駆け下って行く。 そんな切迫感をたしかに肌に覚えて目をひらくと、お堂の外はひどい朝焼だった。風かと思われたが、空は低く滞って、沢の音が夜よりも近く、草の穂が赤い光に濡れたように垂れていた。格子を掴んだ両手の甲も、毛穴を醜くひらいて、赤く染まっていた。その手をすぐ鼻先に見ながら、私はしばらくの間、格子とこの汗まみれの身体がどこでどう繋がっているのか、はっきり感じ分けられなかった。」
by loggia52
| 2011-01-11 21:36
| 書物
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