三朝温泉・木屋旅館

　三朝温泉は木屋旅館という木造3階建ての、老舗旅館に宿をとった。三徳川に面して客室14室と、小さな旅館だが、なんと言っても温泉がすばらしかった。旅館内に、4箇所の源泉を持っている、いわゆる「自噴」の宿。そのなかでも、《楽泉の湯》という温泉は、二つの枡形の浴槽が並んでいるだけの実にシンプルなつくり。しかも浴槽の地下2メートルあたりから源泉が湧出しているのだが、それが足下の岩の隙間から湧き出している。これがたまらなく熱い。水道水でぬるめられるようにホースが浴槽に引いてあるが、強烈に熱いのである。その浴槽に3人でウーンと呻り声を堪えながらゆっくりゆっくり息を止めて入っていく。58度くらいとどこかで書いてあったが、とても入れないと、最初は足をいれてすぐに飛び出したが、がまんしながら再度挑戦。不思議なもので、熱さになれてくるとなんとか首まで浸かることができた。それどころか、その熱さがまた心地よく感じられてくるのはどうしてだろう。ここは純粋にラジウム泉を堪能するだけの温泉だ。無色透明、他の温泉で感じるあの鼻につんとくる硫黄臭もまったくない。　温泉を堪能したあとはぶらりと浴衣姿でその上に羽織をひっかけ、三人で温泉街を歩く。あまり客は見かけない。通りを抜けて、三徳川にかかる橋の上で、カンチュウハイを片手に川沿いの満開の桜並木や、雪解け水を集めた川の流れに遊ぶ鴨の類を眺めている。　宿に引き返し、近くの薬師堂をのぞくと、なんとも素朴なお顔立ちの日光・月光を脇侍に、薬師如来が安置されている。三尊のバランスが悪いのは、あるいは薬師如来と脇侍がそれぞれ別のところにあったものだからかもしれない。特に日光・月光菩薩のお顔は忘れられない印象を与える。さらに歩いて三朝神社へ。途中に桜の古木があって、これがちょうど花の盛り。三人、思わず息をのむほどの見事さ。古木の木肌と妖しいまでに引きずり込まれそうな花群れの色との対照に心ひかれた。