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![]() 40年近く前のはなしだから、微熱を帯びたような読後の情感がかすかに残っているばかり。初めて読むのと変わりない状態で読み始めたのだが、まずは安藤元雄の翻訳にすっかり震えてしまった。もちろん原文の、比喩を幾重にも重ねて、イマージュの影をことばに入念にしのばせる文体、プロットの進み具合を度外視しても、ことばをイメージの織物のように織り上げていく文体がまずあるわけだが、それを小説の日本語として、はじめから終わりまでその荘重なトーンをゆるぎなく持続させて乱れることのない翻訳を完遂することは至難に類する。名訳である。 海を隔てて敵国ファルゲスタンとはもう300年以上も戦争状態にあるオルセンナの青年貴族が、敵国をのぞむシルトの海岸の城塞に監察将校として赴任する。ただ、戦争状態といっても、300年のあいだ戦闘はまったくなく、無為と倦怠がこの国には瀰漫している。この状態を変えていこうとする気配もなく、安逸な状態がこのまま続くことにだれも懐疑していない。いや、意識の闇においては、懐疑してやまないのだが、だれもそれを口にはしない。口にするとこで、安穏と倦怠にまぶされた《日常》がうしなわれていくような茫漠とした怖れを感じているのかのようだ。 この青年将校はそういう退屈で無為な日常からのがれるべく、あえてオルセンナの辺境の地であり、ファルゲスタンと対峙する前線基地でもあるシルトへの赴任を希望する。このシルトの城塞にある海図室が、いわば小説の見取り図にもなっている。青年将校(名をアルドーという)はしばしば海図室を訪れ、船でシルト海を哨戒するルートや、向こう岸のファルゲスタンをのぞむ地理的なトポスをながめては長い時間をすごすうちに、徐々にこの敵国と対峙するシルトの海に引き込まれていく。 アルドーのシルトへのそうした無意識に火をつけるのがヴァネッサ・アルドブランディというかつての恋人である。彼女と無人島にわたり、そこから見える対岸のファルゲスタンの火山に魅せられる。 彼女と出会うあたりから、小説はゆっくりと、あるカタストロフにむけて時限装置を解いていき、それまでの安逸・倦怠の薫香に覆われていたたゆたうような道行きの速度をあげながら、不気味な緊張感を帯びてゆく。このあたりの小説の運びのギアの切り替えの妙には舌を巻く。 さて、あらすじめいたものはこのあたりで。 そのころ読んでいたブランショやシモンやビュトールなどに比べれば、この小説の絡み合うような文体になじんでさえしまえば、随分ストーリーはたどりやすい小説である。かつての恋人が主人公を変えていくところや、城塞のアルドーの同僚などの人物造型もオーソドックスな伝統的な小説のそれに従っている。ただ、この反時代的な歴史的、地理学的な舞台どり、そしてなによりも、ことばによるイマージュの見事な綾織り《幻想空間)を、丹念に紡ぎながら、同時に紡いだ見事な織物(幻想空間)を壊していく(壊れていく)過程を対位法的に描いている小説空間は、時代を超えて読み継がれていく力を確かにもっている。 もうひとつ、思うことは、「シルトの岸辺」が「アミナダブ」と併せて集英社の全集で出たのが1967年だが、1960年代から70年代は、20世紀の世界文学のシリーズや全集が花盛りだった。なかでも、集英社や白水社それに加えて新潮社、それから河出のモダン・クラシックスシリーズなどの翻訳にはずいぶんお世話になった。フランス文学では、菅野昭正のクロード・シモン、平岡篤頼のナタリー・サロート、清水徹のミシェル・ビュトールやブランショ。ドイツ文学では川村二郎のムージルやブロッホ、そういえばブロッホの「誘惑者」の翻訳は古井由吉だった。円子修平のムージル「夢想家たち」もなつかしい。イタリア文学は、米川良夫のパヴェーゼやカルヴィーノ、英米文学では篠田一士のフォークナー、丸谷才一のジョイス、高松雄一のロレンス・ダレル。 そして彼らの文学評論には強い影響を受けた。たとえば、川村二郎「限界の文学」「銀河と地獄」や高橋英夫「役割としての神」、篠田一士「詩的言語」や「作品について」、丸谷才一「梨のつぶて」、菅野昭正「詩の現在」、清水徹「廃墟について」などなど。このすぐあとにラテンアメリカの文学が次々と翻訳されて、大きなショックを受けることになった。
by loggia52
| 2014-03-11 20:41
| 書物
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