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![]() 詩人の瀧克則さんが能面を打つと聞いていた。その彼の作品が見られるというので、大阪・茶屋町のギャラリーへ。 瀧さんの作品は三点。第一作目だという「小面」、二作目が「増女」、そして三作目が「深井」。むろん、ぼくは能面のことはなにもわからないが、「小面」と「深井」を比べると、若い女と中年の女という面の違い以上に、なにか引き込まれる力が違うような気がする。それにしても瀧さんがこのような能面を打つとは、驚きであった。 ![]() ![]() しかし、能面を見ていて思うに、これは顔を隠すものというよりは、顔に隠れている見えないものを外に露わにしたものではないかということだ。もちろん、見えないものは、能面を見つめる人それぞれによって違う。だれもが、それぞれの思いで見つめても、面はそれぞれの鏡となって、見る者にかえってくる。その面の変幻の深みと、つかみどころのないウロボロス的な存在の沼は、中世にまでさかのぼるわけだから、それもまたすごいこと。 瀧さんの詩を参考までに掲げて見よう。 古い手紙 和紙に記された文字が息の流れるように紙の上をなぞり、 ほとんど読みとることのできないそれは、旅先の祖父か ら父への手紙である。紙のところどころに紙の瘤が浮き 出て筆の跡をにじませている。 すでに他界した者と、かすかに息をするものとの交信の 跡が、いま、黄色く変色した紙の上で文字の輪郭をうす 青くひからせる。 紙の余白に濃い影があり、陽に透かすと折れ曲がった足 の長い羽虫の形が見える。紙のすきまに漉きこまれたカ ゲロウが、文字の上空を翔ぶ姿でそこにある。私はその まわりを切りとり水に浸した。 紙は水に溶け散り、うすい翅がガラスの器をとおして水 のなかに静止しているのが見える。その翅の先に細かな 気泡が、あたかも虫の眼球のように付着している。水は 私の眼の前でかすかに揺れ、紙のほどけた繊維が動く。 乳白色の水と紙の繊維のなかに文字の跡が見え隠れし、 奇妙な形を見せる。おそらく舟という字であろう。異国 の舟にゆれる文字がいま水のなかに溶けている。境を 往き交う舟である。 小野十三郎賞を受賞した『墓を数えた日』(書肆山田)から引いた。 面を打つことと、カゲロウの漉きこまれた紙を水に浸して執拗にそれを見ようとすることとの間には、何か同じ心の動きがあるような気がする。能の面もまた、「境を往き交う舟」のようにも見えてくる。
by loggia52
| 2016-03-15 16:41
| 美術
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Comments(4)
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