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「歴程」2008年1号(No.547)に、「ミズナラの木の下で」が掲載されている。
これは「ロッジア」に掲載した「キツネ」と同様に『うれひ』という一連のシリーズの一つ。 人工種のヒトを巡る作品で、「傭兵」の話。「歴程」では、このシリーズのきっかけになった 作品を2005年に発表している。「朝狩」という作品。 それを写してみる。 朝狩 時里 二郎 植物図鑑の雨の中を 男は朝狩から帰還する 猟の身繕いのまま弓と胡簶を床に投げ出して 仕留めた獲物を閲覧室の机に置く それは耳の形状をした集積回路の基板の破片 だった 彼の矢が過たずにつらぬいた穴が一 点の闇を点している 矢の径よりも小さな基 板を射抜いて 錐眼のごとき仮想の穴を穿つ 技はこの世紀のものではない 傭兵だった男は彼の世紀を逃れてこの図書館 に漂着した ここを住処に自らの集積回路か ら剥ぎ取られた幼年の記憶の基板を探すため に 紙片と眼差しに封じられた累々たる文字 の列を追い立てながら 朝狩に発つのだった 男はピンセットで今朝の獲物を丁寧に摘みあ げ 小さな闇に眼差しの糸を通して眼を閉じ る 穀雨の湿りをにじませて 息づくような 森の緑に濡れた基板が微かに震えている
by loggia52
| 2008-01-25 21:47
| 詩
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