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ゴリラの生態調査のためにアフリカと関わり続けている氏が、そこで目の当たりにする内戦や紛争の現実が、この本を書かせたと言っていいだろう。
「銃を重そうに、しかし大事そうに胸に抱き、精いっぱい威厳をしめしながら、彼らは私の車や荷物を調べた。なぜこの戦闘に加わったのかと問う私に、彼らは燃えた目を向け、家族を殺されたからだと答えた」 氏が内戦のさなかで出会った少年兵のことを語った部分である。 「戦いは究極の破壊であると同時に、究極の愛の表現でもあるのだ。」 なぜ、人間だけが戦争をするのかという問いを立てて、この本はこれまでのヒト上科の生態研究の成果を踏まえて、克明に霊長類の生態について紹介している。これを読むと、類人猿からヒトへという進化がそう単純なものではなく、複雑で多様な方向を試行錯誤している様子がよくわかる。 大まかにぼくがこの本で理解できたのは、争いの原因になる「食べ物」と「性」のトラブルをどうやって回避してきたか、霊長類の進化とは、この「食」と「性」についての争いをいかにコントロールするかということに尽きるのではないかいうことだ。そして、「食」と「性」の争いに対するヒトの生み出した回避策が、「近親婚の禁止」と「共同の食事」だというのである。とりわけ、類人猿が食物を「所有」し、「分け与える」のに対して、人類は徹底して「分かち合う」という指摘が印象に残る。自分のものとして所有を主張したいところを、徹底的に「分かちあう」ことによって、その葛藤を抑制したというところだ。近親婚の禁止によって、家族の絆が生まれ、食物を「分かち合う」ことで、家族の結束が生まれる。 皮肉なことに、この人類の編み出した争いの回避策が、戦争を生み出す要因になる。家族やその家族たちの集団である共同体が、農耕の出現によって、変質していく。即ち、土地の所有による境界の発生である。家族や共同体が、その所有を永続的なものとするために「墓」がつくられる。死者を利用して、父から子へ、子孫へと土地を譲り渡していくことの正当性を保証しようというのである。共同体は民族へと肥大していく。その境界を守ることが家族を守ることであり、共同体を守ることであるという無償の行為が、民族を守ることへと重層され、為政者はそれを正義として戦争の正当性を主張するために利用する。 こうやって要約すると、一番大切なものが抜け落ちてしまうような気がしてならない。この本が伝えようとしていることは、実は、「なぜ人類は戦争という暴力を生み出したのか」ということに対する答えでは決してない。まして、本の終わりに筆者が提案している「育児の共同」と「食事の共同」が、戦争を生み出す悪循環を断ち切るヒントになるのではないかということでもない。 では、この本が伝えようとしているものは何か。それは、霊長類の生態研究、フィールドワークの脈々とした積み重ねの豊かさ、重さそのものであると思う。実は、戦争や人類の暴力についての言及は、最後の方に少しでてくるだけで、そこまでの各種の霊長類がいかに「食」と「性」の争いをコントロールしてきたかを克明に跡づける分厚い研究のレビューにあたる部分が、実におもしろく興味深いのだ。 久しぶりにスリリングな本を読んだので、ちょっと紹介してみたくなった。 「暴力はどこからきたか」 山極寿一
by loggia52
| 2008-05-24 23:24
| 書物
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